ネオ・セルフ抗体の紹介
私たちは、脳梗塞のように重要な臓器の血管に血の塊が詰まって生命を脅かす血栓症や流産、妊婦の生命を脅かす妊娠高血圧症候群などの病気を引き起こす抗リン脂質抗体症候群という病気の原因となる新しい自己抗体(以下、ネオ・セルフ抗体)を発見しました。流産を繰り返す不育症の症状は、抗リン脂質抗体症候群の症状と共通しています。不育症患者の半数以上で原因が不明であるとされますが、ネオ・セルフ抗体と不育症との関係は明らかではなく、この新しい自己抗体がこれまで原因が不明とされていた不育症に深く関わっている可能性があると考えました。そこで、神戸大学、富山大学、岡山大学、東京大学、兵庫医科大学の5つの大学病院が協力して不育症患者の血液サンプルを集め、ネオ・セルフ抗体を測定することによって、世界で初めて不育症とネオ・セルフ抗体の関係を明らかにするための臨床研究を行いました。
共同研究施設を受診した不育症カップルより同意を得て、ネオ・セルフ抗体を測定しました。同時に甲状腺機能、カップルの染色体検査、ならびに、抗リン脂質抗体などの血栓ができやすい体質を調べる血液検査などを行い、不育症の原因を詳細に調べました。
まず、健康な赤ちゃんを産んだことのある正常女性208人のネオ・セルフ抗体を測定し、正常値を決めました。そして、不育症の女性227人についてネオ・セルフ抗体を測定したところ、52人(23%)の患者で陽性となりました。
不育症におけるネオ・セルフ抗体陽性の頻度は、不育症の原因を調べるための検査で判明した子宮奇形や子宮筋腫などの子宮の病気、甲状腺機能の異常、カップルいずれかの染色体異常などの因子の頻度の中で最も高く、ネオ・セルフ抗体が不育症を起こす重要な原因になっている可能性が示されました。さらに、原因が分からない不育症女性は過半数の121人を占めましたが、そのうち24人(20%)でネオ・セルフ抗体のみが陽性でした(図1)。
特に抗リン脂質抗体検査が陰性となった女性のうち、ネオ・セルフ抗体が陽性となった人が多くいました(図2)。
ネオ・セルフ抗体を測定することで、不育症の発症メカニズム、特にこれまで原因が分からなかった不育症の発症メカニズムが解明できる可能性があります。
今回の研究によって、私たちが発見した新しい自己抗体(ネオ・セルフ抗体)が不育症の重要な原因であることが示されました。今後は、ネオ・セルフ抗体の産生を抑えたり、その働きを阻害したりするような薬剤を開発したいと考えています。また、ネオ・セルフ抗体の研究は、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全など原因が分かっていない産科的疾患の発症メカニズム解明や治療法開発に応用できることが期待されます。